ハルバースタムによるRFK

 D・ハルバースタムの『ベスト&ブライテスト』は、ケネディ政権およびジョンソン政権において、ベトナム戦争の泥沼にはまっていった最上層の高官一人ひとりの愚かさを、完膚なきまでに描ききった名著として、名高い本です。

 大臣級の人でハルバースタムの筆誅を受けていないのは、唯一人、ロバート・ケネディだけで、ハルバースタムはRFKについて、こう表現しています。

 ケネディ政権にあって、ロバート・ケネディは特異な存在であった。第一に、大統領とのきわめて親密な関係から生じる自信である。第二は、情勢報告を受ける時、それが的確かつ正直なものであることを徹底的に要求したという点である。第三は、世界のできごとをチェスのゲームに似た力関係の駆け引きという視点でなく、もっと人間的な基準で観察できる能力、あるいは本能ともいうべきものである(キューバ・ミサイル危機の際、ミサイル基地を奇襲攻撃によって一掃する作戦が提案されると、彼はたった一言、自分の兄を1960年代の東条英機にしたくない、と発言したのであった。)これらの資質から、彼の第四の性格が導き出される。すなわち、成長し、変化し、誤りを率直に認めることのできる能力であった。(『ベスト&ブライテスト』中 134p)

 この「成長し、変化し、誤りを率直に認めることのできる能力」こそが、RFKをアメリカ政治史上、あまり他に類を見ない特異な政治家にしていると私は思っています。

 1963年になると、彼は大きく成長していた。もはや、単純な強硬路線を猪突猛進する大統領の弟ではなく、斬新な考えをもつ最も優れた人物として評価を築きつつあった。フォレスタルやヒルズマンなどハリマンの下で働いた人びとは、ベトナム戦争についての彼らの疑念をロバート・ケネディが評価していることに勇気づけられていた。政権最上層部にあって、彼ほど、この戦争でベトナム国民一般が高い犠牲を強いられているという点に思いを致している人物はいなかった。会議で彼が発する質問は、つねにベトナム国民の問題に集中していた。戦局の進展について懐疑が深まると、彼は聞いた。「ベトナム国民は本当にアメリカ軍の存在を求めているのだろうか。われわれのやろうとしていることは、見当違いではないのだろうか。(『ベスト&ブライテスト』中 135p)

 RFKには視野の狭さも歪みも当然あり、間違いも多々犯してますが、こういうベトナム国民の視点から物事を見ようとするような姿勢が、この人、すごい!大好き!と私が感じてしまう所以です。
 
 相手の立場に立って物事を考える能力は、政治家にはぜひとも持っていてもらいたい能力でありますが。


 ヴェトナム戦争批判中のRFK。

 写真は、corbis社から引用しています。